- 経緯
- 中身が無いということ
- 面白くて新しいというアートとその自由度
- 何か面白くて新しいアートの実例たち
- 現代アートと価値
- Ether Invisible Rockの面白さと広まり方
- Bitcoinをアートとして考える
- まとめ
経緯
Ether Rockという、2017年に発行された何の変哲もない岩が描かれただけのNFTがあります。昨今のNFTブームでTronのJustin Sun氏がこのNFTを歴史的なNFTとして購入し、Twitterのプロフィール画像にしたことにより、Ether Rockは一気に脚光を浴びることとなります。
2021年8月28日の最終取引価格は888 ETHです。つまり、日本円にして3億1000万円以上の値で取引されたことを意味します。ただの岩の画像のついたNFTがです。
EtherRock 27 purchased for Ξ888 Ether
— EtherRock Price (@etherrockprice) 2021年8月28日
($2,872,733.28)
5 hrs 56 mins ago (Aug-28-2021 09:37:29 AM +UTC)
Txn: https://t.co/PMdQR8mcVF#EtherRock #EtherRocks pic.twitter.com/BWL1rEFVT4
そして、岩ブームが起きます。Bitcoin Cashにある程度の値がついた後に乱発したBitcoinハードフォーク祭りあたりからずっと"いつもの流れ"になっているのですが、何かが一気に流行るとそれを模倣したものがたくさん出てきます。最近ではDOGEのブームから大量に犬トークンが生まれていったことをご存じの方も多いでしょう。
岩ブームでもやはり同じ現象が発生し、岩になにか書いてあったり、色が違ったり、かたちが違ったりする模倣品がたくさん生まれたのです。 そして第二波に乗ろうとする購入者が現れ、なんとなく値が付き始めています。そんな中、無色なのに光るモノが一つ現れたのです。
それが、今回記事にしたEther Invisible Rockです。
このEther Invisible Rockには透明 (=Invisible) で見えないという特徴があります。
そう、ただの真っ白なだけの画像がついているNFTなのです。
実際の画像↓
↑ここにあります。
中身が無いということ
John Cageというアーティストによって1952年に作曲された4分33秒という作品があります。この曲の最大の特徴は楽譜に休符しかないことです。
つまり、一切音がないのです。CDを買っても空のCD買うのと何も変わりません。
それでも、世界中で愛される大ヒット曲なのです。
多くのアーティストにカバーされたりもしています。
4分33秒はバンドでカバーされたり(誰も楽器持ってるだけで何もしない)、アカペラ合唱団でカバーされたり(全員棒立ち)などいろんな面白いパターンでカバーされています。今やいかに新しい4分33秒を奏でるか(奏でないけど)というムーヴメント的なアートになっているのです。
実は私はずっとこの4分33秒をNFTでやりたいと思っていました。
ニューヨークのグッゲンハイム美術館ではまさに白紙が展示されるなどこの手のアートは今に始まったものではありません。
参考: https://www.guggenheim-venice.it/en/art/works/untitled-50/
面白くて新しいというアートとその自由度
もともとの4分33秒はたしか環境音を楽しむ (=無音であることによって周りの様々な音に耳を傾けることができる)という意味合いだったと思います。
そして、アートはだんだんと無駄であること/シンプルであること/意味が無いようにみえること、さらに政治的主張や社会風刺またはナンセンス、思想、哲学、概念、生き方、場所、匂い、活動、技術、コミュニティ...そういったあらゆるもの自体がアートの評価に含まれるように、もしくはアートそのものになっていきました。
アートという概念が拡張されていった結果、何か面白くて新しいことをアートと呼ぶようになったのです。
「男が近づいてきて「パンクとは何だ?」と聞いてきたんだ。だから、ゴミ箱を蹴り飛ばして「これがパンクだ」と言ったんだ。するとそいつはゴミ箱を蹴り飛ばして「これがパンクということか?」と言ったんだ。俺は「違う。それは流行りと言うんだ」と言った。
原文: A guy walks up to me and asks 'What's Punk?'. So I kick over a garbage can and say 'That's punk!'. So he kicks over the garbage can and says 'That's Punk?', and I say 'No that's trendy! 」- Billie Joe Armstrong(Green Dayのギターボーカル)
何か面白くて新しいアートの実例たち
泉 - Marcell Duchamp
便器に 「R.MUTT 1917」 と書いただけのアート (陶器メーカーの社名を MUTT= のろま という言葉でいじっている)
天井の絵/YES - オノヨーコ
部屋の隅に脚立が置いてあり、天井から虫眼鏡がぶら下がっている。天井に小さく書かれている文字をその虫眼鏡で見ると、YESと書いてある。
このアートはThe BeatlesのJohn Lennonがオノヨーコに惚れたきっかけとなった作品である。ジョンとヨーコというカップルの始点というストーリーもアート作品をさらに色づけるのだ。
もし "No" とか "インチキ" みたいな嫌な言葉が書いてあったら、直ぐに画廊を出て行ったよ。でも "YES" と書いてあったから「これはいけるぞ、心温まる気持ちにさせてくれる初めての美術展だ」と思った。
僕はそこに書かれていた "YES" という一言に救われたんだ。
- John Lennon (The Beatles)
Nutopia
少し余談ながらも人によっては本題への解釈の一つにもなり得る話。
"Rock"を代表するアーティストであるジョンと現代アーティストのヨーコは1973年にNutopia (ヌートピア) という架空国家の建国を宣言した。
その国の国旗がこれです↓
↑ここに国旗があります。
そうです。Ether Invisible Rockと同じく真っ白なのです。
Nutopiaの国家もあります。ヌートピア国際賛歌というタイトルがついていますが、曲の中身は6秒間の無音です。実際にジョンレノンの3rdアルバム「Mind Games」に収録されています。当初はヌートピア宣言という邦題がつけられていました。
そしてこのNutopiaにはこんな特徴があります。
これらの特徴はまさにBitcoinそのものの考え方を彷彿とさせますよね。
Love Is in the Bin (愛はごみ箱の中に) - Banksy
現代において現代アートで最も話題性を持ち続けているのはBanksyだろう。この絵は「風船と少女」というタイトルで描かれオークションに出品された。約1億5000万円という値で落札されると同時に額縁に仕込まれていたシュレッダーが作動し、絵の下半分を細断したのだ。そしてその絵は「愛はごみ箱の中に」に改題された。
現代アートと価値
4分33秒の面白い点はいろいろあります。音が無いと周りの音を聞くことできる。音が無いという新しさ、空っぽのレコード / CDを買う人、無音が著作権を持つのか、いかに新しい4分33秒を演奏するか...などアーティストにもリスナーにも無限の楽しみ方があります。考えさせるということ自体がアートなのです。さらにそれと同時に、考えさせておいて別に何もないということも面白ければアートになるのです。
もちろん面白いと思う感性は人によって異なるので、あなたには別の面白さが見えているかもしれません。そういう自分なりの面白さのシェアや真面目そうに一見ばかばかしいことを議論する様子もアートの一部と言えるでしょう。
上のBanksyの絵がシュレッダーで細断される様子を見て何か感じ取る人はいるかもしれません。だから価値があるのです。
そして、細断されたことによりメディアや私のような個人がそれを広めるのでその価値が大きくなるのです。
認知度×面白さ×公開時の新しさ = 価値
と考えることも可能であると私は考えます。
これらのうちの1つの項が0であるならそのアート作品に価値はつきません。
新しいことを考えるのは意外と誰にでもできると思います。無限の自由度を持つ現代アートにおいてやっていないことを探すことは砂浜で砂を見つけるようなものです。
面白いことを考えるのは難しい。でも、認知されると面白さは勝手に考えさせられた人が作っていったりもします。
そしてこの3つの項の中で認知度が最も稼ぐのが難しいと言えます。
そこで、重要になってくるのが広め方もしくは広まり方です。
この認知度というファクターは難しいことにただ単純にいたるところに広告を出せばいいという問題でも無いのです。なぜなら簡単にはその広告は目を引かない (=面白くない) からです。今時広告なんてものはどこにでも溢れているので、当然でしょう。
Ether Invisible Rockの面白さと広まり方
閑話休題。さてやっとここでEther Invisible Rockに話を戻します。
Ether Invisible Rockは無駄、ナンセンスさをNFTで表現しています。実際にクリエイターがそういう意向で制作したかはわかりませんが、そう感じさせることができる時点で価値に繋がるのです。そして、この記事を読み終わった方は少しだけこのNFTに面白さを感じるかもしれません。つまりそうやって価値の増大が連鎖するのです。
この記事自体、あのNFTに関するツイートをリツイートした人々、コメントした人々、記事にするメディアそれらすべてがその認知度を膨らませ価値を持たせます。
しかし、その程度ではまだありふれています。何もない画像付きのNFTをアートとして昇華させているのにはEthereumのガスの高騰も背景にあると言えるでしょう。
あのNFTは発行するのに結構な額のETHをガスとして支払っているはずです。ただの真っ白な画像をNFTにするためだけに。この無駄こそはこのNFTの新しい部分であると言えます。
Bitcoinのハードフォークの歴史、流行ったDeFiプロトコルの模倣プロジェクトの数々、昨今の模倣品NFTの数々、そういったものを知っているとその皮肉が白の画像に浮かんで見えます。
認知度を膨らませるためにEther Rockを利用し、その模倣品の氾濫 (暗号資産業界の慣例 ) を皮肉って白紙をNFTにする、それも高額なガスを支払って。それに一度値が付けば、意味が分からないと面白がる人、面白くて笑う人、それをシェアする人が現れるのです。
Bitcoinをアートとして考える
Bitcoinは基本的に大きな変更をされることなく2009年から稼働し続けていますが、今と10年前では全く価格が違います。面白さと新たらしさは変わらないのに、認知度が全く違うのです。Bitcoinが決定的に他の暗号資産と違うのはアート性であると言う説を最後に提唱したいと思います。
Bitcoinはブロックチェーンという新しい技術を使った世界で初めての暗号資産です。
生まれた背景にはリバタリアン的政治的思想やサイファーパンク的活動が含まれ、匿名のSatoshi Nakamotoというクリエイターが発明しました。
そしてジェネシスブロック (最初のブロック) にSatoshiはこう言い残しました。
2009年1月3日、首相が銀行への2度目の救済措置の瀬戸際に立っている。
原文: The Times 3/Jan/2009, Chancellor on brink of second bailout for banks.
最大発行数2100万BTC、21万ブロックごとにマイニング報酬半減、など数字自体もシンプルであり美しいのです。難しい絵のNFTよりも簡単なドット絵のNFTが高値で取引されているように、シンプルさも1つのアートです。
数学的、暗号的な美しさと政治的背景、世界初のブロックチェーンという新たな概念の最初のブロックというキャンパスに書いた皮肉、革命的ムーヴメント、世界初の暗号資産、ブロックチェーンという新たな技術、暴走、Bitcoinには数えきれないほどの面白くて新しいアート性や考えさせる概念が含まれているのです。
まとめ