数字はときに非常に誤解しやすいものです。
そんな数字に関する誤解は投資に対しては直接的なダメージになります。
ということで今回は数字のトリックに関して解説したいと思います。
数学に対してアレルギーを持つ方も多いと思いますが、わかりやすくなるように努力いたしますのでお付き合い下さい。
上昇率と下落率のトリック
あなたはもしかしたら上昇率、下落率のトリックに騙されていませんか??
例えば、とある銘柄が1日で10%の値上がりをしたとします。
その翌日に今度は10%の値下がりをしたとします。
きっと取引所などでは
+10%と表示された翌日に-10%と表示されているでしょう。
「+10%と-10%だから合わせて±0
つまり、2日前と何も変わらない。」
そう思っていませんか??
なにがおかしいの?と思った方、危険です。是非もう一度良く考えてみてください。
仮にビットコインが現在100万円だとしましょう。
これが10%値上がりすると110万円になります。
そしてそれが10%値下がりするといくらですか?
そう、99万円です。
つまり最初より減っています。
同様に、先に-10%である90万円になってから+10%になっても同様に、やはり99万円です。
式にすると、
100×(1+0.1)×(1-0.1)
=99
となります。掛け算の場合その項を入れ替えても積は変わらないので、
先に+10%しても先に-10%しても順番に関係なく結果は99万円になります。
これは1.1×0.9とすると全然相殺されないことは見てわかるのに、この1.1と0.9を算出するための計算
(1+0.1)と(1-0.1)
の±0.1の部分が前日比として表示されることにより起きてしまうトリックです。
この±0からの相違は前日比の数字が0から離れるほどに開いていきます。
例えば25%上昇して
次に25%の下落をすると、
100万円だったビットコインは937500円になります。
50%上昇して、50%下落すれば75万円になります。
つまり、同時に下落分を取り戻すのに必要な上昇率も上がっていきます。
例えば、
25%下落した場合75万円になりますがこのビットコインが100万円に戻るには33.33...%の上昇が必要です。
同様に、33.33...%上昇して133万3333円になったとしても25%の下落で±0の100万円になってしまいます。
50%下落して50万円になったビットコインが100万円に戻るには倍にならないといけないので100%の上昇が必要です。
これは一つの銘柄しか出てこないので、"25万円の下落を取り戻すには25万円の上昇が必要"と解釈することでこのトリックを回避している人も多いでしょう。
しかしトレードにおいては複数の銘柄を触る人の方が多いでしょう。
その中で、
「昨日は資産を33%増やせたけど、今日は27%減らしてしまった...
でも昨日はたくさん増やせたし大丈夫か!」
というような誤解はかなり多くの人がしていることかと思います。
この例では実は資産は減少しています。
例えば資産100万円から始まっているなら
100×1.33×0.73
=94.9万円
と、見事に51000円の損失が出ています。
上昇率、下落率という数字は下落率の数字の方が重いということを是非覚えておきましょう。
ちなみに掛け算して打ち消せるのは分数です。
2/3になった銘柄は3/2になることで元に戻ります。
勝率のトリック
勝率は高い方がいい、勝率を高めよう!と思ってる方はいませんか?
これも殆ど全ての場合、危険です。
まず勝率というものを考えてる時点でそれはトレードによる資産構築を目指していることでしょう。その場合には勝率は高ければ良いという問題ではありません。
例えば勝率50%で利益幅10%で利確、損失幅10%で損切りという場合、上項の上昇率と下落率のトリックと同じメカニズムで、徐々に資産は減っていきます。
それに対する解決策として、勝率を上げるという手段を考える方は非常に多いのですが、トレードにおける勝率の上昇は大抵の場合、
含み損を抱えても損切りしない数が増えているだけにすぎません。
つまり100万円のビットコインが89万円になったあとに110万円になったので利確。
これで勝ちと計上していく場合、勝率が騰げるには、損切りラインをどんどん下げていくことになります。
つまり損切りの下落率を20%30%と下げていくことで、損切りせずに含み益に戻り、そこで利確。それにより勝率は上がっていきます。
勝率が騰がれば騰がるほど連勝しやすくなり、あたかもちょっとずつ資産が増えていき成功しているように錯覚するでしょう。
しかし実際に損切りラインに到達した場合、上昇率と下落率のトリックのメカニズムによって±0から離れるほどにそれを補うための上昇率はどんどん大きくなっていき、その下落率は致命的なものになります。
40%落ちたら損切りなんて場合にはそれを取り戻すのに、66.66...%の上昇が必要になってしまいます。
50%落ちて損切りなら100%の上昇が必要になります。
もっと最悪なのはさらに勝率を上げるために利確ラインも下げることです。
90万円になった後に110万円になってそこからまた100万円に戻ってしまい、その間に売ってないと勝率があがりません。
ここで考える人が多いのが利確ラインを下げるということです。利確ラインを+5%に下げていた場合、5万円を取れるので勝ちになります。
利確ラインを下げれば下げるほど利確できる機会はおおくなるので勝率がさらに上がります。
下落率に対して大きな上昇率が必要なのに上昇率を下げていくともう目もあてられません。
+5%で利確、-40%で損切りという場合の勝率は相当高いでしょう。
これが俗にいう、損切りをなるべくしないでこまめに利確している勝率の高い状態です。
しかし、その勝率で資産は増えていくのかというのは別問題です。
ではこの条件でのトレードの場合、何回に一回までの損切りで資産は増えていくでしょうか。
正解は11回に1回です。勝率にしておよそ91%になります。
つまりこの条件の場合に負けていいのはたったの11回に1回までということになります。
また、一回の負けの重みが非常に大きいので少しの確率のブレで一気に退場になるので、許容できる敗率以上にこの確率のブレも危険になります。
例えば10回に1回損切りラインに到達するにしてもそれが2連続すると、資産は一気に16%になります。
こうなったらもうかなり厳しいでしょう。こっから6.6倍にしないと元に戻りません。
また10回に1回の場合はそれはつまり100回に1回訪れることになります。
100回のトレードなんてすぐです。
また、1000回に1回、3連続で損切りラインに達します。
つまりこれは資産が一気に6.4%にまで減るということです。
その時点で1000万円持っているなら64万円まで減ります。
また人間の心理として損切りラインを下げるほどに起きる心理があります。
それは"今更切れない"という心理です。
つまり損切りラインを低くすればするほど実際にそこに到達しても損切りできなくなる心理が必ずと言っていいほど働きます。
そしてそれはさらに損切りラインを下げていきます。
この状態になったら退場は近いと言えます。
積み上げたものをぶっ壊していく典型的なトレードの失敗例です。
身に着けたもの取っ払っていかなければいけなくならないように気をつけましょう。
マーチンゲール法のトリック
マーチンゲール法とは
カジノなどでの必勝法として取り上げられる闇の投資手法です。
例えば1/2で勝てば倍、負ければ賭け金を失うギャンブルがあったとしましょう。
最初にまず1ドル賭けます。
これで勝ってもずっと1ドルずつ賭けますが、負けた場合に賭け金を2倍にします。
さらに負けた場合はさらに賭け金を2倍にします。
そして勝った場合はまた次に賭けるのは1ドルです。
こうすることで絶対に負けないというのがマーチンゲール法です。
例えば3回連続負けた場合、
1,2,4ドルずつ合計7ドルを失いますが、次に8ドル賭けて勝てば8ドル増えるために合計で+1ドルになります。
さらにあと何回連続負けたとしても勝率は1/2でありどこかで勝てば+1ドルになるので必ず勝てるというのがその内容です。
しかし、いくら1/2と言っても、1/1024の確率で10回連続負ける時は来ます。その場合に11回目に賭ける金額は2048ドルです。
しかもその2048ドルは1ドルの収益を取るための超ハイリスク超ローリターンになります。
さらに負ければ次は4096ドル、次は8192ドルとなります。
こうなってきてあなたはそれを支払えるでしょうか、まだ大丈夫としてもじゃあ65536ドルになったら?
さらに倍、倍となっていったら?
いや1/2でそんなに連続するはずがないというかもしれません。
65536回に1回起きる16回連続の負けだなんてそうそう起きない。そう思うかもしれません。
特定の経験を持つなぜか2のn乗の数が分母の確率に強い人ならきっとわかるはずです。1/65536という確率はまあまあ起きると。
そしてその際に131072ドル賭けなければならない、そしてそれで負けたら次は262144ドルをさらにかけなければならないということです。
こうしていくとマーチンゲール法は超高勝率の必敗法であるということがわかります。
マーチンゲール法は無限の資金源と無限のマックスベット額が許容される場合のみ通じ、実際には無限の資金はないので続けることで必ず負ける方法であるということです。
どんなに確率が低くても0%ではないことは時間の制約がない場合、必ず起きます。
それが起きた場合に全ての資産を失うということは、必ず全ての資産を将来失うということを指します。
"起こりうることは起こる"ということはマーフィの法則という冗談めいたアノマリーの法則集の一つですが、"バターの塗ってあるパンをテーブルから落とした時にバターの面が下になる確率は絨毯の価格に比例する"などといった他のジョークのアノマリーとは違い、数学的に正しいものです。
サイコロが1万個だろうが10万個だろうが振った時に全て1になる確率は0ではないので振り続ければいつかは起きます。
含み益、含み損のトリック
ビットコインを例えば10万円で1BTC買っていて100万円になったあと現在70万円へ落ちてきたところだとしましょう。この場合は含み益は60万円であり、7倍という大成功です。
しかし、100万円で売って直後に100万円で1BTC買いなおして70万円になってしまった場合には30万円の含み損で0.7倍になっていますが、どちらもその結果は手元に70万円残っています。
しかし心理的負担が何故か後者の方が大きいと感じる人が多いために前者の方が良いと思われがちですがこの2例は全く同じものです。含み益を減らすのも含み損を増やすのも何も変わりません。
もっと言うなら、100万円で買った1BTCを80万円で損切りし、70万円で買えば、10万円から70万円まで持っていた人よりも儲かっています。
ちなみにですが、この2つはトレードの時間軸による差異なのでどちらが正解かという問題ではありませんが、錯覚しやすいトリックなので気をつけましょう。
これによって含み損を恐れすぎたり、含み益に安心してどんどん含み益を減らすケースはよく見かけます。
ちなみにですがこれは現物取引に限ります。
FXや信用取引などのレバレッジのかかったものの場合はロスカットラインの関係により、有利なポジションと不利なポジションは存在します。
例えば、10万円を元手に10BTCを1BTC=10万円で購入してこれが100万円になったところで売ると90万円儲かりますが、ここでもう一度90万円で900万円分BTCを買って70万円まで行くと真っ白にこんがり燃え尽きます^^^
これらのトリックとの投資における向き合い方
"起こりうることは起こる"ということは考えづらいような出来事によっても全資産を突如失うことになるわけですが、これも無限の時間が前提になります。
よって大事なのは、自分の寿命が来るまでの間にそれがくる可能性がどれくらいあるのかというリスクの大きさです。
また、それをどこまで許容できるかという許容量が大事になります。
例えば、全資産を失う可能性が1000年に1度ほどのことなら全く気にする必要はないでしょう。しかしそれが10年に1度起きるくらいのレベルならそれは非常に危険です。
なので最も大切なのはまず、この確率をなるべく下げるということです。
そのためになるべく資産は分散させることで、取引所閉鎖や銀行の倒産、日本に対する危機などによって資産が全て失われる可能性を下げることができます。
例えば、1つの取引所に全資産置いておけばそこが潰れたら全て失いますが、3つにわけていた場合、それらが全て潰れないと全て失われません。
また、銘柄にも言えます。全力投資をする場合、なんらかの事件によりその銘柄が価値が無くなる可能性が危険になってくるので、分散投資をします。
そうすることで一つダメになってもあなたは全資産を失う致命傷にはなりません。
仮想通貨だけに投資をすれば仮想通貨全体がだめになったときに致命傷になってしまいます。なのでそのうち為替や株に関する記事も書く予定ですが様々な投資分野に手を出すのも良いでしょう。
円だけを持つということも円への全力投資であり、投資をしていないわけではありません。
しかし、これらよりももっと優先するべきである、致命傷に成る可能性が高いことが、
利益幅を小さく、損失幅を大きくし勝率を上げている状態です。
取引所が潰れるよりも、銀行が閉鎖するよりも、ずっと3回連続40%のマイナスを食らう方が起こりやすいでしょう。
そしてこれは生きている間に起きる可能性が十分にあるものでしょう。
また、おそらく40%で切れなくて50%60%とラインを切っても損切りしないようになっていけばさらに致命傷になる可能性は上がっていきます。
投資という分野は非常に古くからあるのに、長く続けている人はその年数が増えていくにつれてどんどん加速度的に減っていくのはこのためです。
損切りラインや利確ラインを下げて勝率を上げていく投資法の場合、その勝率を上げれば上げるほど致命傷を負う可能性が高くなっていく矛盾が起きます。
よって大事なのは勝率が低くても資産を増やせるようにシフトすることです。
勝率が低くても、勝った時に大きく利益を取り、負ける時の損失を小さくしていれば勝てます。そのうえで、一気に致命傷を負う可能性は非常に低くなっていきます。
これが利大損小が大事と言われる所以です。
また利小損大では勝てないのもこのためです。
利益は大きく伸ばして損失は小さく済ます。
これは生き残るために必要なことです。
もちろん見る時間軸が長くなればなるほど、利益幅と損失幅は大きくなっていきますが、長期的な投資の場合でも、例外に漏れずこれについては深く考える必要があります。長期になればなるほどリスクに対しての感覚が薄まるからです。しかし長期投資というのはその間に様々な事件が起きる可能性を秘めており、むしろ様々なリスクを常に考える必要があります。
投資において最も大切なのはリスクと正しく向きあうことです。
そのためには様々な数字のトリックによる罠に気をつけなければなりません。
そのうえで初めて様々な分析によるテクニックが上に積まれていきます。
どんなテクニックをもってしてもリスクと向き合えなければ崩れてしまいます。
最初は怪我をするかもしれません。でも死ぬよりかはずっとマシです。
生き残らなければ稼げません。生き残ることは最低条件であることを是非ご理解してリスクと向き合って、投資に挑んでいただければと思います。